Excelの基本をしっかりと勉強していない初心者によくある間違いの一つに「データと書式を混同している」というのがあります。
例えば、セルを黒色で塗りつぶしてもセルのデータは変わりません。また、セルの塗りつぶしで色分けをしたからといってデータを分類したことにはなりません。「緑が~という意味で、黄色が~という意味で、・・・」などと勝手に、セルの色に意味を付けて、ビジュアルで意思表示をしようとするのは間違いです。
簡単に言えば、セルのデータだけで意味が伝わるような表を作りなさい!!!ということです。・・・と言われても、頭の中が「???」の状態になっている初心者の皆さんも多いと思いますので、いくつかの問題を出題しながら、しっかりと解説していきたいと思います。
目次
- 1.正しい「色」の使い方
- 2.塗りつぶしは分類ではない
- 3.正しい分類の入力と色分けの方法
- 4.一覧表を作りなさい!
- 5.太字で強調してはいけない
- 6.行を非表示にしてはいけない
- 7.結合=同じではない
- 8.データ管理にかかわるコメントをしてはいけない
- 9.まとめ
1.正しい「色」の使い方
(1)色で表現しようとしてはいけない
問題
セル範囲C2:C8の合計を求めた。
「一覧から北九州支店を除外する」ことを表すために、5行目を黒く塗りつぶした。この操作は正しいと言えるか。また、取り消し線を設定した場合はどうか。
解説
オートSUMボタンで合計を求めます(参考:【Excel合計】表の意味を考えてSUM関数を使ってもよいか判断する練習問題)。
セルを黒く塗りつぶすと文字が見えなくなりますが、合計は変わりません。
セルには、データと書式の2つの情報が保存されています(データと書式の分離の原則。参考:【Excel】セルにはデータと書式の2つの情報が別々に保存されている)。書式をいくら変えてもデータは不変です。
黒色で塗りつぶしをすることによって、一覧からの除外を表すのは間違いです。データが見にくくなるだけで何の効果もありません。
データと書式を混同してはいけません。もともと書式は装飾するために使うものであって、データや意味を表すものではありません。セルの色に何らかの意味を持たせるのは間違いです。
取り消し線はセルの書式設定(フォント)の画面で設定することができます。
取り消し線を設定しても合計は変わりません。取り消し線は「取り消し」という名前の線ですが、単に文字の真ん中に線を引く書式であって、データ入力を取り消す効果は全くありません。
取り消し線は書式の一つであってデータではないので、取り消し線を設定してもデータは不変です。このように、書式を設定したからと言って、データを変えたり取り消したりする効果は全くないので、書式で何らかの意味を表そうとしてはいけません。
ここで、赤色の10と青色の20を足すことを考えてみましょう。色に関係なく30になります。
Excelに限らず、いっぱんにコンピュータでは文字で入力されたデータのみを用いて計算します。書式は無関係です。コンピュータの決まりなので覚えてください。セルの色で計算をしようとしてはいけませんし、色で区別して集計しようと考えること自体が間違いなのです。
(2)データを色で強調するのは正しい
問題
さきほどの表で、D列に「九州」と入力してから、グレーで塗りつぶした。この操作は正しいと言えるか。
解説
九州地区を表したいのであればセルに「九州」と入力しなければなりません。また、除外を表すのであればセルに「除外」と入力すればよいのです。中途半端に色を使うのではなく、セルに文字列を入力します。
SUMIF関数を使えば、九州地区以外の合計を求めることができます。
- =SUMIF(D2:D8,"",C2:C8)
九州地区の店舗だけ色を塗ったとします。この操作は正しいです。
前述のように、書式はセルに入力されたデータを強調するために使います。塗りつぶしがあっても無くても「九州」であることは伝わりますが、それを強調するために色を塗るのは正しいです。
根拠となるデータがあらかじめセルに入力されていなければなりません。そのデータを強調するために書式を設定します。根拠となるデータを入力していないのに書式だけを単独で設定してはいけません。
2.塗りつぶしは分類ではない
(1)書式が消えることもある
問題
次の会員名簿で「退会者の行はグレーで塗りつぶす」ことにした。このデータをCSVで配布してもよいか。
解説
前述のようにExcelを含むすべてのシステムにおいて、書式を用いて集計することはありません。グレーにしても除外したことにはなりません。したがって、「退会者はグレー」というのはデータ管理として間違いです。
名前を付けて保存で、CSV形式で保存します(参考:初心者が「CSVで保存してアップ」を理解するのは意外と難しい(勉強会資料))。
CSVで保存すると書式が消えるので意味がありません(参考:【ExcelとCSV】本気で理解したい初心者のためのCSV勉強会資料)。
(2)色フィルタに頼るな!
問題
Aチームをピンク、Bチームを水色、Kチームを緑色として、メンバーの氏名を色分けした。オートフィルタを用いて、チームのメンバーを抽出することは正しいと言えるか。
解説
各チームのメンバーを塗りつぶしによって色分けをして、オートフィルタを設定すると「色フィルタ」で抽出することができます(参考:【Excel】オートフィルタの設定と解除、条件にあう行を抽出する方法の総復習)。
しかし、繰り返しになりますが、根拠となるデータをセルに入力していないのに、色で区別してはいけません。そして、その色を用いてデータの抽出をするのはもってのほかです。
本来、「色フィルタ」は一時的に使うものです。例えば、抽出したいデータに「一時的なマーク」として色を付けておいて、それを抽出するときに使います。これはあくまで一時的なものであって、何らかの種類を抽出するために使ってはいけません。
3.正しい分類の入力と色分けの方法
問題
上の2つの例はそれぞれどのように修正するべきか。
解説
(1)フラグを立てなさい!
グループや区分など、データの種別を表す情報は「データ」としてセルに入力するべきです。例えば、会員名簿で退会した人のデータを残したい場合は、色を塗るのではなく「削除の列」を設けます。
例えば、削除の列に「1」と入力します(「削除」という文字列や、退会の日付等でもよい)。
このような列のことを「フラグ」といいます(参考:【Excel】本格的に学ぶフラグの立て方入門(関数は使いません))。COUNTIF関数(またはCOUNTBLANK関数)を用いることによって、削除の行を除外して個数を求めることができます。SUMIF、AVERAGEIFなどを使って集計することもできます。
また、チームは色で分けるのではなく、チームの列に入力するべきです。
セルに入力した「データ」で抽出します。
(2)条件付き書式を使いなさい!
削除の列をもとにして行全体に条件付き書式を設定するのは正しいです。入力されたデータをもとに、それを見やすくするために書式を設定するのは書式の本来の使い方であり、正しい使い方です。データ全体に対してC列固定の条件付き書式を設定します。
C列が「1」の行だけグレーになります。
また、チームを入力した列をもとにして条件付き書式を設定して、色分けをするのは正しいです。
行の色分けはセルに入力されているデータを条件として、条件付き書式を設定するべきであり、根拠となるデータが無いのに色分けをしてはいけません。
4.一覧表を作りなさい!
問題
商品コードを一覧にして印刷しようとしている。このなかで新発売の商品をオレンジ色で塗りつぶした。
後日、商品コード「K-005」も新商品だったことが判明したので、違う色を用いて訂正した。このような操作は正しいと言えるか。
解説
目立つように色を塗るのは、間違いではありません。しかし、塗りつぶしただけでは、全部で何個の商品が新商品なのかをいちいち数えなければならず、チェックをすることもできません。色を塗った本人は「分かりやすい」と思っていても、集計・分析をする人から見ると「分かりにくい」のです。
データ処理ではデータの内容よりも「件数」のほうが大事であり、種類を表す場合はその種類に属するデータの件数が大事です。件数を把握することにより、見落としを防ぐことができます。
色に意味を持たせて伝えることはミスの原因となります。新商品が何かが分かるように一覧表を作り、全部で何件あるかを明確にするべきです。
そのデータをもとにして、帳票に色を塗るのであれば正しい運用と言えます。
5.太字で強調してはいけない
問題
住所録のなかで、年賀状を出す人を太字で表すことにした。この問題点を指摘しなさい。
解説
太字や斜体、文字の色はフォント(書式)なので、書式で「年賀状を出すこと」を表すのは間違いです。年賀状の列を設け、丸印をつけます(1と0でもよい)。
これでフィルタによる抽出が可能となり、件数を確認することもできます。
繰り返しになりますが、丸印を付けた行を条件付き書式で太字にするのは構いません。セルに入力したデータをもとに書式を設定するのは正しいですが、データが無いのに書式だけを設定するのは間違いです。
6.行を非表示にしてはいけない
問題
年賀状を出さない人を非表示にした。この操作の問題点を指摘しなさい。
解説
4行目と13行目の人に年賀状を出さないことが分かっていて、その2行を非表示にしました。しかし、このような抽出方法は間違いです。
特に縦長の表の場合、途中の行が非表示になっていても気が付かないことが多く、集計のときに漏れが発生する恐れがあります。非表示もシートに対する書式の一種であり、行の非表示によって「年賀状を出さない」ことを表すのは間違いです。
再表示します。
年賀状の列を設け、フラグを立てます。
年賀状を出す人を抽出することによって、年賀状を出さない人を非表示にします。
7.結合=同じではない
問題
次の表でセルの結合をしている部分がある。この問題点を指摘しなさい。
解説
手書きの表の場合、セルを結合することによって同じデータであることを表すことがあります。
しかし、Excelの場合は結合をしてはいけません。
セルの結合は、セルの区切りを無くす「書式」であり、それ以上の意味はありません。書式とデータは無関係です。書式であるセルの結合を用いて「同一のデータ」もしくは「同一のグループ」を表すのは間違いです。セルの区切りを無くすことに何らかの意味を持たせることは間違いなのです。
また、リスト形式の表の一部を結合することはレコードやデータの独立性に反し、データ分析の妨げとなります(参考:【神Excel】8個の基本パターンで完全習得「リスト形式」の教科書)。このような結合を絶対にしてはいけません。
セルの結合を解除し、すべてのセルに同じデータを繰り返し入力します。
8.データ管理にかかわるコメントをしてはいけない
問題
「合計するときには除外してください」という内容のコメントを挿入した。このようなコメントは正しいと言えるか。
解説
コメントはセルに付け加える校閲機能です。「なぜそのようなデータを入力したのか」「そのデータが本当に正しいのか」といったデータの補足説明をするための機能であり、セルのデータではありません。
したがって、「~の場合は~する」といったデータ管理の注意を記述してはいけません。コメントを見落とす恐れがあります。また、除外である旨を記述しても、除外はできません。
合計除外の列を設け、フラグを立てます。表を見ただけで除外であることが分かるようにしなければなりません。
9.まとめ
問題
以上のことを踏まえて、Excelで表を作るときに、書式をデータ入力として使用してはいけない理由を簡潔に述べなさい。また、例外があればその例を挙げなさい。
解説
(1)形式的な理由
色を用いてデータを表すと、白黒印刷をしたときやテキストファイルで保存したときに書式が消えるため分かりにくくなります。色をたくさん使って印刷することはインク(トナー)の無駄遣いとなります。
また、意味を表す文字列を近くに入力して、それをさらに見やすくするために書式を用いるべきです。
(2)実質的な理由
いっぱんに、コンピュータでは文字列でデータ管理をします。特に、Excelはセルに入力したデータで計算するので、書式をもとに分析するのは不可能であり、やってはいけません。
根拠となる文字列または数値が無いのに単独で書式を設定し、何らかの意味を表現するのは間違いです。根拠となる文字列または数値があってそれを強調するために書式を設定するのは正しいです。
(3)例外:帳票の場合
Excelで入力する表には、データを格納し集計するための表と、入力フォームまたは帳票としての表があります。Excelで入力フォームまたは帳票を作る場合は、書式を自由に使ってもかまいません。
ただし、たくさんの色を使用するのは控えるべきです。
解説は以上です。