個人事業主などが確定申告をするときに、収入から必要経費を差し引くことができます(これで所得税が下がる)。しかし、何でもかんでも必要経費にしていいわけではなく、明らかに仕事のために購入したものは必要経費ですが、逆に明らかにプライベートで出費したものは必要経費ではありません。
ここで問題となるのは、仕事とプライベートの両方を兼ねているものです。これについては、支出した金額のうち業務の遂行上必要である部分に相当する金額を必要経費として良いことになっています(これを「家事按分」という)。会計ソフトを使えば、家事按分の計算は自動でやってくれますが、当サイトはExcelを解説するサイトなので、あえてExcelで家事按分をしてみたいと思います。
そこで、今回は、所得税法とその関連する法令を復習するとともに、Excelを用いて家事按分する方法について出題します。なお、家事按分の細かい決まりについての説明は省略させていただきます(当サイトはExcelの使い方を解説するサイトであり、節税を解説するサイトではありません)。
目次
1.所得税法関連法令をおさらいしよう
プライベートの支出の中には、完全なプライベートの支出と、仕事とプライベートの両方を兼ねている支出があります。所得税法では、これらの支出をあわせて「家事上の経費及びこれに関連する経費」、略して「家事関連費」と定めています。原則として家事関連費は必要経費に算入されません(所得税法45条1号)。簡単に言えば、プライベートを含む支出は必要経費ではないということです。
所得税法(昭和40年法律第33号)
第45条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの
しかし、自宅兼事務所で事業をしている場合、自宅兼事務所が存在しなければ収入を得ることはできず、また、自宅兼事務所の電気を使うことができなければパソコンで業務をすることもできません。
この点について、所得税法施行令、所得税基本通達45-2は、業務の遂行上「必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない」としています。簡単に言えば、業務の割合が計算できるのであれば、それに応じて算入しても良いということです。なお、端数が発生した時にどのように処理をするのかについては規定が無いので、自由に処理してよいと考えられます。
所得税法施行令(昭和40年政令第96号)
第96条 法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費所得税基本通達(国税庁)
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
2.家事按分できるもの
プライベートと事業を兼ねて支出しているものは家事按分ができます。
- 自宅兼事務所の家賃や水道光熱費
- 自家用車を営業でも使う場合のガソリン代
- スマホやインターネットを使用して仕事をする場合の通信料金
3.業務の割合とは構成比率のことです
(1)面積で求める方法
問題
自宅兼事務所の床面積が64.7平方メートルであり、そのうち8畳の部屋(12.96平方メートル)を事業に使用している。事業と家事の割合(%)をそれぞれ求めなさい。
解説
業務の割合の計算方法については法令で定められていないのですが、税務署によると合理的な方法であれば何でもいいそうです。税務調査の際に合理的な理由と計算方法を説明できたらOKです。家賃の場合は面積か作業時間で計算するのが一般的で、その割合は全体に対する割合=構成比率で求めます(参考:構成比率は全体の何%?の前に、大きい数で割る感覚を鍛えなさい)。12.96/64.7で約20%が業務の遂行上必要な割合ということになります。
1=100%から引くことによって、プライベート(家事)の部分も求められます。
(2)時間で求める方法
問題
自宅兼事務所で、1週間のうち月曜から金曜は10時間仕事をし、土日は6時間仕事をしている。事業と家事の割合(%)をそれぞれ求めなさい。
解説
業務の割合は数字で計算できたら何でも良いということで、電気代の場合は業務の時間やコンセントの数で業務の割合を計算することが多いです。1週間は24*7で168時間です。
このうち、平日の50時間(10*5)と土日の12時間(6*2)のあわせて62時間を業務に使用しています。
その割合は62/168で約37%となります。
残りの63%がプライベートです。
4.必要経費=支出*構成比率
(1)家賃の家事按分
問題
自宅兼事務所の床面積が64.7平方メートルであり、そのうち8畳の部屋(12.96平方メートル)を事業に使用している。自宅兼事務所の家賃6万円を家事按分しなさい。
解説
さきほどの問題で、自宅兼事務所のうち20%にあたる部分を事業として使用していることが分かっています。したがって、家賃6万円に構成比率の20%を掛けて12000円が必要経費となります。
残りの48000円はプライベートの部分となります。このように、割合に応じて分けることを、按分(あんぶん)といいます。按分金額は、合計金額に構成比率を掛けて求めます(参考:【Excel】按分の計算方法と按分比率を補正する計算式の練習問題)。
(2)電気代の家事按分
問題
自宅兼事務所で、1週間のうち月曜から金曜は10時間仕事をし、土日は6時間仕事をしている。電気代8500円を家事按分しなさい。
解説
さきほどの問題で、自宅兼事務所の約37%を事業として使用していることが分かっています。これをもとに電気代を按分する場合も電気代8500円に割合を掛けます。約3137円が必要経費となります。
5.個人事業主の複式簿記
(1)1か月分の仕訳
問題
青色申告の個人事業主で、上記の家賃と電気代を普通預金口座の引き落としで支払った場合の仕訳を述べなさい(日付省略)。
解説
個人事業の場合、事業でかかった必要経費は費用の勘定科目(地代家賃、旅費交通費、通信費、交通費など)、プライベートの支出は「事業主貸」で仕訳をします。貸方は普通預金の6万円です(個人の口座の場合は事業主借)。
したがって、家賃6万円の場合、必要経費の12018円が地代家賃、残りが事業主貸です。
電気代のうち必要経費である3145円は水道光熱費です。
(2)1年分の一括仕訳
問題
青色申告の個人事業主で、1月から12月までの家賃60000円/月を1年分一括で仕訳しなさい。
解説
毎月家事按分を計算して記帳するのは面倒ですが、毎月の利益を計算したいのであれば、毎月家事按分するべきです。
しかし、毎月の利益を計算しないのであれば、1年分を合算して年末にまとめて按分する方法もあります。例えば、引き落とされた6万円をすべて事業主貸(プライベート)として仕訳をしたとします。
これでは必要経費(20%分)が計上されていませんので、年末の12月31日に、1年分の家賃の合計に事業比率の20%を掛けて地代家賃(必要経費)として計上します。ただし、一括で計算するので1円単位の誤差が発生することがあります。
逆に、引き落とされた6万円をすべて地代家賃(必要経費)として仕訳をしたとします。
この場合は、年末の12月1日に6万円の12倍に、プライベートの比率80%を掛けて事業主貸(プライベート)として計上します。
6.会計ソフトを使ったら楽ですが・・・
最初に述べたように、クラウド会計ソフトを使って記帳をするのが楽ですし、家事按分を自動で計算する機能もあります。しかし、Excelを用いて計算することによって、家事按分の仕組みをより理解することができます。
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解説は以上です。詳しくは税務署もしくは税理士の先生にご相談ください。