WordやExcelで作られた日本語の文書で、たまに斜体を使っているものを見かけることがあります。日本語文字に斜体ボタンを適用すると強調になるどころか、かすれた文字になったり、読みにくくなったりして、読み飛ばされることもあります。日本語の使い方として間違いです。
あえて文字を変形することによって自己満足しているのかもしれませんが、読む人にとっては極めて不快に感じます。そこで、今回は、日本語で斜体ボタンを使うことが絶対に許されない理由と、正しく文字を斜めにする方法を解説します。
目次
最後に動画を載せています。ぜひご覧ください。
1.斜体ボタンは何のためにあるのか?
(1)斜体の正しい使い方
WordやExcelに限らず、文字を扱うソフトには斜体ボタンがあります。
斜体ボタンは何のためにあるのか、ご存知でしょうか?
斜体というのは、アルファベットを使った文章(欧文)で特別に強調したい単語があるときに使います。これを「強調(emphasis)の要素」といいます。また、強調するときに太字を使うこともあります(strong)。斜体と太字の2種類の強調書式があるのは欧文だけです。
大事なことなのでもう一度言います。斜体は文章中の単語の強調です。
日本では、例えば、学校で使われる教科書の文章に太字はあっても(正確には太字ではなくゴシックです)、斜体を使って強調することはありません。テストに出るのは太字の単語であって、斜体の単語ではありません。当然のことです!! もともと日本語の文章は縦書きなので、右に傾けた斜体というものが存在しないからです。
(2)メイリオ
はてなブログをはじめ、多くのブログで「メイリオ」というフォントが使われています。このブログもメイリオです。
もともとWindows Vistaのシステムフォントですが、メイリオの日本語文字は斜体ボタンを押しても斜めになりません。これは、日本語には斜体を使う文化がないという理由で斜体が用意されていないからです。
確かに、斜めに傾けたら「明瞭」ではなくなります。
(3)引用
引用するときに日本語の文章を斜体にしているものもよく見かけますが、これも間違いです。意味不明な使い方です。
引用の一般的なルールでは、日本語の文章を引用するときは「増田(2016)によれば~」または「~である(増田, 2016)と指摘している。」などと出典を付けて紹介すればよいことになっています。書式を変えるルールはありません。そもそも日本には、引用文を斜体にするといったルールは存在しません。引用で斜体を使うのは欧文だけです。
ブログで引用の機能を用いたときに、自動的に斜体になってしまう場合は「font-style: normal !important;」として斜体を取り消します。
(4)図版
ロゴの一部やレタリング(文字を図形化すること)として文字を斜めにすることがありますが、その場合であっても斜体ボタンを使うことはありません(詳しくは後述)。
2.イタリックとオブリーク
問題
次の2つのテキストボックスのうち、斜体ボタンを適用したときに「イタリック体」になるのはどちらか。また、斜体ボタンを使用すべきでないのはどちらか。
解説
2つのテキストボックスがあります。テキストボックスの外枠をクリックします(参考:透明なテキストボックスの書式と行間の調整を極めるための練習問題)。上のフォントは「Bookman Old Style」です。
下のフォントは「明朝体」です。
斜体にします。
斜体には、イタリック体(italic)とオブリーク体(oblique)の2種類があります。
イタリックとはイタリア風の筆記体のことです。「a」や「g」の文字の形が変わります。
そのほかに、「d」「m」「n」の最後が右上にはねていたりと、単に斜めにしているだけではなく、文字の形が変わっています。斜めになっても読みやすいイタリック専用の文字が用意されていることが分かります。
イタリック体になるのは一部の欧文フォント(フォント名が英語で、半角英数字に限られる)だけです。
オブリーク体は形を変えずに、機械的に斜めに傾けているだけです。日本語文字に斜体を適用すると原則としてオブリーク体になります。
日本語を変形すると読みにくくなります。
日本語をむりやり斜めに傾けて、オブリークにするのは全く意味がありませんので、原則として斜体ボタンを使用してはいけません。
3.傾斜の変形
問題
次の図形をかきなさい。
解説
日本語はオブリーク体になるので、斜体のボタンを使うのは間違いです。
文字を傾けるときは必ず、テキストボックスを挿入します。
塗りつぶしと枠線をなしにします。
極太のゴシック体にします。赤色にします。
改行を1ポイントにします(この操作はWordのみ)。
変形で「四角」にします(参考:文字を縦横に引き伸ばす方法とテキストボックスの回転、反転、変形)。
ここで文字がつぶれている場合は横に広げて、それぞれの文字が正方形に近くなるようにします。
変形のハンドルを少しだけ左に動かします。何ミリか動かせばよいです(参考:変形ハンドルを使うと基本図形とはまったく異なる図形が描ける)。
動かしすぎた場合は、元に戻して、少しだけ文字が傾くようにします。
これで完成です。
日本語の文字を少し傾けることで、スピード感や動きを表現することができますが、傾けすぎると読みにくいだけの文字になります。
4.傾けるときの適切な角度
問題
次の文字が約何度傾いているか角度を計測しなさい。また、斜体ボタンを使用した場合と比較しなさい。
解説
縦に直線をかきます(参考:【Word・Excel図形】直線と長方形と楕円を描く基本トレーニングをおろそかにしてはいけない)。
回転で、その他の回転オプションを選びます。
回転角度を10度にします。
漢字の縦の線にあうように傾きを調節します。10度より小さいです。
今度は文章中の文字を斜体にします。
直線をコピーします。10度より大きく傾いていることがわかります。
回転角度を増やしていきます。
約18度になっています。
通常の斜体は20度程度の傾きがあり、読みにくくなります。
斜体にするときは変形を使い、傾きは10度程度にとどめます。日本語の文字は原則として斜めに傾けてはいけませんが、傾ける場合は「よく見ると斜めになっている」という程度の傾斜にします。
5.結論
正当な理由もなく日本語文字に、斜体ボタンによる斜体を適用するのは迷惑行為です。
パソコン教室で、初心者に斜体ボタンを教えるときには、イタリックとオブリークの違いをしっかりと解説するとともに、日本語では原則として使用禁止であることを説明してほしいです。
斜体ボタンを平気で使う人や、文字をぐにゃぐにゃに曲げようとする人は、古き良き美しき日本語を汚しているという自覚が全くありません。罪悪感がないのですからエスカレートする前に、法律で厳しく取り締まったほうがいいのではないかと思います。
ダサいワードアートやダサい文書を根絶するには初期の段階でしっかりと教育するべきです。
解説は以上です。
*補足*斜体に対応した日本語フォントをインストールして使用した場合はこの限りではありません。
6.動画はこちら(無料)
この記事は、わえなび実力養成講座「Word新演習2」Program2-19 の動画を書き起こして、加筆修正したものです。